成り行きには遠い関係。

会社のAさんとBさんが思わぬ場所で一緒にいるところを目撃したと同僚から聞いた。風の噂になる前の、目撃した本人からのタレコミである。

AさんとBさんの組み合わせは意外性たっぷり。接点を思い浮かべてみても、たとえば「みんなで飲みに行くか!となったときにお互いその場にいたんです」とか「仕事終わりでそのままごはんを食べに行ったり」なんていうよく聞くなりそめエピソードは思いつかない。

目撃者が口の軽い人間だったら「ちょっとどう思う?」と少なくとも3人くらいには聞いてみたことだろう、と言うか「ちょっとどう思う?」のテンションでひとりにでも喋ろうもんなら、それこそまたたく間に広がってみんなの知るところとなっただろう、と思う。
それくらい意外なふたりが、本当に偶然、妙に口の固い人に目撃され、たまたま私がその目撃者の親しい同僚だったという具合だ。

いろんな可能性を考えてみたけれど、自然とふたりが結びつくような事の運びは想像がつかない。彼らは成り行きとはもっとも遠い関係のように思える。だとしたら答えはひとつ。どちらか、あるいは双方に明らかに事を運ばせる情熱のような衝動のようなものがあったということだ。成り行きを待たずにどちらかが何かのアクションを起こしたということにほかならない。なるほど。これはすごい!

たまたま置かれた環境とそれに伴う成り行きにより、なるべくしてそうなったんだろうというカップルを多く見てきたし、反対に成り行きが起きる環境が整わないことで相手がいないと嘆く人も多い。たまたま同じ会社に勤めていたという環境は整っているので、自然な成り行きがもたらされるまで偶然のタイミングを待って、本当にその時が訪れてなるべくしてそうなったという可能性も考えられるけど、ちがうだろう。世界はそんなにドラマチックじゃないと思う。

きっとどちらかが、なかば唐突にもう一方に接近したにちがいない。積極的なんだけどたぶんほかの誰にも気づかれない方法で、どうにかなろうと試みたんだと思う。そう考えるとすごいな。そんな強い気持ちがこのオフィスのどこかにあったんだと思うとなんだかたのしい気持ちになってくる。いいぞもっとやれ。頼まれてないけど応援するから、弾み車がぐいっと動いた瞬間の話を聞かせてくれないかな。

目撃者に固く口止めをされているので会社の誰にも喋れないし、彼らの本当のところも確かめようがないので、穴を掘って誰かに話したくなったのでした。